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実験の目的

宇宙の構造や個々の天体現象の総合的理解のためには、電磁波(可視光、赤外、X線など)の観測に加えて、宇宙線やγ線の観測による、非熱的なプロセスの解明が不可欠である。しかしながら、これらの高エネルギー領域での観測は、到来頻度が少ないことに起因する測定の困難さもあって、その起源すら未解決なものが大半である。特に100GeV以上の電子やγ線は観測量が少なく、今後に飛躍的な発展が期待されている。
我々が提案する、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟船外実験プラットホームにおけるCALET(CALorimetric Electron Telescope)計画では、高エネルギー電子、γ線に加えて、陽子、原子核成分や太陽変調を受けた電子の観測も合わせて実施する。これらの多岐にわたる観測の実施により、未解決な重要課題である宇宙線源の同定と加速機構及び伝播機構の解明、各種のγ線放射源における生成過程の研究、暗黒物質の探索、太陽磁気圏に関する研究を、各分野のエキスパートの参加により実施する。このようにして包括的な高エネルギー宇宙の未知な姿を明らかにし、人類の知的地平の拡大に貢献する。

以下に具体的な観測内容と期待される成果について紹介する。

1.電子観測(1GeV~20TeV)

宇宙線が宇宙の何処でつくられ、如何にして高いエネルギーを得るかは、宇宙線の発見以来の1世紀にわたる大問題である。近年、X線、TeV γ線観測から逆コンプトン散乱による電子加速の様子が明らかになりつつあるが、まだ観測上の問題も多いだけでなく、光子の放射機構に内在する仮定を完全に除去することが難しいという欠点がある。
それに対して、TeV領域の電子成分の観測は、加速源の直接的同定と加速、伝播機構の解明が可能となるユニークなアイデアとして提案されている。高エネルギーの電子成分は、陽子や原子核成分と異なり純粋に電磁的過程(シンクロトロン放射と逆コンプトン散乱)のみでエネルギーを失う。これらの過程では、エネルギー損失の割合がエネルギーの2乗に比例するため、1TeV以上の電子は寿命が10万年以下になり、この間に拡散過程で伝播できる距離は2-3kpc以下に限られる。

図1 これまでの一次電子観測結果と拡散モデルによる理論計算の比較
Vela(帆座にある超新星残骸)など高エネルギー天体が宇宙線加速源だと仮定した場合に
10TeV付近に観測されると予想される電子のエネルギースペクトルを示している

その結果、CALETが観測を目指すTeV領域の電子には、近傍ソースの影響がエネルギースペクトルに明確に現れる(図1)。また、到来方向に20%程度の異方性が生じることにより、さらに加速源の同定が容易になる。また、CALETは数10GeVから数TeVの領域の電子観測における優れた電子(+陽電子)の検出性能によって、暗黒物質が電子-陽電子対を生成した場合に作る特徴的なスペクトルの精密な観測が十分に期待できる。図2は暗黒物質の候補として、質量620GeVのKaluza-Klein (KK)粒子が対消滅した場合の観測予測である。

図2 電子+陽電子観測による1TeV領域付近のエネルギースペクトルの予想

10GeVから数TeVの領域では、観測データの高精度化により、衝撃波加速モデルや伝播機構のパラメータの決定に必要なエネルギースペクトルを確定する。現在、超新星爆発における電子加速のパラメータ(加速時間、上限エネルギー、スペクトルの冪など)と銀河内伝播のパラメータ(拡散係数、ハローの厚さなど)を仮定したコンピュータシミュレーションを用いた理論計算を実施して、これまで得られている観測データとの比較が行われている。これらのパラメータの正確な決定により、宇宙線加速機構の統計的な解明が初めて可能となる。

2.ガンマ線観測 (10GeV~10TeV)

高エネルギーのγ線は、電子による背景放射光子などの逆コンプトン散乱や陽子の核反応で生成されるため、宇宙線の加速と極めて密接な関係にあり、加速源での電子、陽子の様子を反映する。このため、γ線観測を合わせて行うことにより、加速源と伝播時の電子について総合的理解が可能となる。また電子起源と陽子起源のγ線との分離により、電子と陽子の加速を見分けるという、宇宙線物理の重要課題について結論を得ることができる。
CALETは天頂から約45度の視野(FOV)と0.12 m²・sr の有効面積を持つので、姿勢制御なしにISS軌道上での1年間の観測で、ほぼ全天のソースについて約50日間の観測が可能となる。図3にCALETで期待されるγ線観測について、観測可能な銀河の領域のマップを示す。Fermiに対しては、数10GeVを超える高エネルギー領域でエネルギー分解能が格段に優れているので、エネルギースペクトルの折れ曲がりやラインγ線の観測において勝っている。この結果、数10GeVからTeV領域での有力な暗黒物質候補である、SUSY粒子の対消滅で発生するラインγ線の検出が、図4に示すように、理論的予測の範囲内で十分に可能である。CALETは、2008年に打ち上げられたFermiとの同時観測やその後の変動天体の観測などに重要な役目を果たすことができ、互いに相補的なミッションであるといえる。

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図3 CALETで1年間に観測可能な銀河の領域を銀河座標系で表したもの
色の濃淡は有効観測時間と露出面積の積で、検出器での観測量の多寡を表している

図4 CALETでの観測(5年間)によりSUSY粒子が対消滅した場合に観測されると予想されるラインγ線のエネルギースペクトル

3.陽子、原子核観測(数10GeV~1000TeV)

陽子、原子核成分の数10GeV~1000TeV領域での観測により、特に超新星における衝撃波加速モデルの検証に有効な、核種の電荷に依存したエネルギースペクトルの折れ曲がりの有無を検証する。図5、図6に、これまでの実験による観測結果と,CALETによる陽子・ヘリウム原子核およびそのほかの宇宙線原子核成分のエネルギースペクトルの観測予測を示す。

図5 これまでの観測とCALET(5年間観測)による陽子・ヘリウム原子核の観測予測
単一の検出器として100GeV-1000TeVのエネルギースペクトルを網羅的に測定可能である

図6 これまでの観測とCALET(5年間観測)でのその他の原子核成分の観測予測
飛翔体による観測としては、最も高いエネルギー領域の観測が高統計精度で行われる

 

さらに、2次核と1次核の比(たとえば臭素原子核(B)と炭素原子核(C)の存在比)のエネルギー依存性を、これまで衛星実験でのデータがほとんどない数10GeV~10TeVの領域で求めることにより、原子核の銀河内伝播モデル(Leaky Box Model、Reacceleration Model など)について確定的な答えを求めることができる。図7にこれまでの観測データとCALETによる観測の期待値を示す。

図7 二次核と一次核の観測例として代表的なB/Cのエネルギー依存性のこれまでの観測結果とCALETによる観測予想 上下の点線は理論およびこれまでの観測による予想を示す

従来、拡散係数のエネルギー依存性を低エネルギーから単純に外挿すると、1 PeV 領域での宇宙線到来方向の一様性を説明することが難しいことが指摘されており、ハローや銀河外宇宙線の寄与も示唆されている。100 GeVを越えるような高エネルギー領域では、宇宙線が伝播する総物質量が数g/cm² になるため、このような2次核の観測は、大気によるバックグラウンドの影響が深刻になり、気球実験ではたとえ長時間の観測が実現しても非常に難しい。CALETは国際宇宙ステーションに設置され観測を行うため、大気による影響を受けず、高精度の測定が行えると期待される。

 

4.太陽変調を受けた電子スペクトル観測(1GeV~100GeV)

CALETによる観測では、上記の高エネルギー領域での電子観測に加えて、太陽活動によって銀河宇宙線が変調をうけるいわゆる太陽変調(solar modulation)を、長期にわたって観測が可能である。数10GeV以下の領域における電子スペクトルが、太陽活動とともにどのような変動をうけるかを観測することにより、太陽磁気圏のモデル(Force-Field近似、Driftモデル)の妥当性を検証し、太陽磁気圏における拡散係数についての知見を得る。
図8に、これまでの観測結果と、F-F近似で計算された電子エネルギースペクトルを示す。BESSの観測からは、反陽子、陽子のデータとの比較により電荷依存性について興味ある結果がえられているが、異なるローレンツ因子をもつ電子における電荷依存性について、両者の差異について調べることができる。このような長期変動に加えて、フォーブシュ減少による短期変動を観測(>10例)して、その成因の解明をめざす。

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図8 太陽変調による電子スペクトルのモデル計算とこれまでの観測結果の比較

5.ガンマ線バースト現象探査(7keV~20MeV)

ガンマ線バースト現象は天文学の分野で知られている中で最も光度の高い物理現象で、ガンマ線が数秒から数時間にわたって閃光のように放出され、そのあとX線の残光が数日間見られる。 この現象は天球上のランダムな位置で起こり、一日に数回起きているとされている。
CGBM は LaBr3(Ce) と BGO という2種類の結晶を用い、7keV〜20MeVのガンマ線バースト現象の検出を目指す.LaBr3(Ce) を用いる 検出器を Hard X-ray Monitor (HXM) と呼び、7 keV から 1 MeV までの エネルギー帯を検出。BGO 結晶を用いる検出器を Soft Gamma-ray Monitor (SGM) と呼び、100 keV から 20 MeV までの検出が可能。HXM と SGM を組合せる事で、広帯域のエネルギーにおいてガンマ線バースト現象の発見が可能となる。